「……俺がしたことが最低最悪なのにどうして仁はそんなことを」
殺そうとは思っていなかった、と仁は言っていたが、ギリギリの理性で押さえていたに過ぎない。
「大目に見ることができないことなのに何でそんなこと言ったのか、小春さんが帰ったあと聞いたら、小春さんが俊君のことを怖がってないし、怒ってもいない。俊君のことが好きで会いたいのがわかったから、背中を押すためにあえてそう言ったらしいよ」
肩からすっと力が抜ける感覚。
久しぶりに呼吸ができたような感覚にさえなる。
仁が俺を排除する気がないとわかり、恐怖が薄れたこと。
そして、誰よりも水野のことを理解している仁が、水野は俺のことを好きでいると言ったこと。
可能性は残されている。
「俊君、早く元気になって。とても素敵な男性になって小春さんを迎えて。俊君のこと宮野さんたちがすごく褒めていたの。俊君の大宣伝はばっちり!!」
それだけ言うと、佳苗はイベリコ豚のソテーにフォークを突き刺し、渡してくる。
俺は受け取り、口に入れる。
美味しいとは思えないが、食べる気力が出た。
偏頭痛を少しでも改善して、仕事をバリバリ熟して、水野に会って土下座して許しを請うのだ。
注文した料理は何とか全て胃袋に収めた。
その姿に、佳苗は姉のように優しく満足げに笑みを浮かべた。
水野の笑顔を久しぶりに思い出した。
明日から頑張ろう。