「お兄ちゃん、お願いだから自殺だけはしないでよね」
姉貴と一緒に暮らす、妹の美玖が俺を出迎むかえた。
俺の顔を見た瞬間に目を見開き、次に目を細め、俺の反応を窺うように言葉を発した。
俺はそれに答えず、姉貴は?と尋ねた。
リビングに行くとソファーで寛ぐ、天下泰平と言わんばかりの顔をした姉貴。
「よく来たな!師匠にボコられたとかいう傷もだいぶ良くなったな」
「……師匠?」
「私の師匠は仁先輩しかいない。昔、大層、私を可愛がってくれてな。しかし、そのぼそぼそした話し声と言い、陰気な顔もわが弟とは思えんな」
昔から、散々姉貴には煮え湯を飲まされてきた。
しかし、ここまでの最大に最高に煮えたぎる湯はなかった。
俺に気力があったなら、女だとか姉貴とか関係なく、殴っていただろう。
怒りが込み上げて抑えきれなかっただろう。
でも、今の俺は怒る気力もない。
怒ることも面倒だ。
それより事実確認だ。
「いつから水野が仁の幼馴染だと知っていた?」
「広也に写真を見せてもらった時だ」
大学1年の頃だ。
俺の素行調査をしていた姉貴と広也が通じていた事が記憶に蘇る。
ほぼ最初の頃じゃないか。
もう事実確認をする前に卒倒してしまいたい。
そんな俺の気持ちなんて知らない姉貴は嫌味なほど呑気に続けるのだ。