俺だって、水野がいなければ職場からも駅からも近い都心のアパートに住むし、飲み会だってもっと参加する。
それでも、結婚を意識していればそんなことはできない。
そんな俺を共通の友人であり、かつ口が悪い上原なんかは。
「重い。重すぎる。愛されてても、そんな重い男と付き合ってられない」
そう言いながら、手を振った。
「安心しろ。お前なんか誰も相手にしないから」
そう返したら、殴りかかってこようとして、必死にやはり共通の友人である広也と瀬戸が押さえていた。
しかし、俺は上原の発言で考えた。
なるほど、上原なんかは相手にしないからどうでも良いが水野に重いと感じられては破局になるかもしれないと。
だから、結婚なんていう言葉を水野の前で言ったことはないし、俺の実家に招くこともない。
水野の実家に毎年行くのも、水野は単に遊びに来ているとしか思っていない。
それで良いのだ。
それで。
だが、その結婚への努力も今日は馬鹿馬鹿しくなって本の中身なんかちっとも入って来やしない。
「榊田君?」
そっと遠慮がちにふすまが開き、水野が顔を出した。
俺は読んでもいない本を読んでいるふりをして、何も返事をしない。
「また、難しそうな本読んでる」
布団に寝そべる俺の本を覗き込む水野にやっぱりイライラして、本に触れる手を払いのける。