「榊田……お前な。しっかりしろよ。さすがに情けなさ過ぎる」



「そうよ。お兄さんにあれだけボコられて怖いのもわかるけど、彼女のことが好きなら立ち向かいなさいよ」



「立ち向かっても負けるだけです。それに水野は俺じゃなくて向こうを選びますよ」



 水野は過去を振り返る。



 仁とだったら、と考える。


 そして、仁を選ぶ。


 わかってた。


 もし、仁と上手くいってたら俺がどんなに頑張っても俺を見てくれなかっただろう。


 それでも、仁は佳苗を選び、水野は俺と付き合い。


 水野は俺のことを好きでいてくれた。


 確かに、俺を好きでいてくれた、あの言葉に嘘はない。


 それを信じ切れず、めちゃくちゃにしてしまった。



「おいおい。兄貴を選ぶって付き合えるわけでもあるまいし」



「兄貴じゃないから、怖いんです。赤の他人だから、どうにかなりそうで怖いんです」



 水野が今の仁との関係に満足していなかったら。


 仁のことをどうしても欲しいと思ったら。



「赤の他人で、何であんな醜い顔にされるのよ!?というか、あんた、私たちに嘘ついたわね」



「幼馴染なんです。お互い相手に異様に執着してて。いつもどこかで不安に思ってたんです」


 髪も顔も手もビールでべとべとしていて、そのせいか、皮肉な顔が張り付く。


 今の俺じゃ、何も仁に勝てないし、水野が戻って来る可能性もない。