ここは、普通の働きをする人間なんて必要としない。


 期限内に無難に仕事をこなすだけの俺など必要がないところなのだ。



「あんたさ。振られて泣いてるんじゃなくて、惚れ直してもらえるような働きすれば?今のあんたを見ても、彼女は戻って来ない」



「京香。イライラするのはわかるが、それ以上言うと榊田が立ち直れないぞ」



 高杉さんはスーパーの袋から、缶ビールを取り出し俺へと差し出した。


 俺が取るより先に宮野がさっと奪い取って、豪快に飲む。



「こういう情けない男見るとイライラする!女に振られてメソメソなんて女々しいやつ」



「ほら。もう仕事外の時間だ。俺もその企画書に徹夜する価値はないと思うぞ」



 もうどこまで情けない男になるのだろうか。


 ガキだ、と俺をこき下ろす仁の言葉を今ほど痛感することはない。


 わかってはいても、ダメなのだ。


 水野がいないと、本当に俺はダメな人間なのだ。


 水野と出会う前も、いい加減で傲慢なダメ男。


 水野に振られて、気力をなくしたダメ男。