水野に俺はふさわしくない。
きっと、俺が水野だったら仁を選ぶと思った。
仁は水野というより、佳苗に対しても、優しくできた男だ。
水野を大層可愛がっていながらも、佳苗と円満に暮らせているのは。
佳苗の寛大な性格もあるけど、日頃から佳苗への感謝と愛情表現を怠らないことだろう。
いつしか金曜日に水野が笑顔で出迎えて、夕食を用意してくれることが当たり前になっていた。
それに感謝したことがあっただろうか?
感謝の言葉を口にしたり、おいしい、と言ったのは、どれくらい前だろうか?
水野は好きだと言ってくれて、俺のちょっとした行動にいつもありがとうと笑顔を向けてくれていたのに。
佳苗の朝食はやっぱりどこか抜けている。
こんなものが出てきたら、俺なら文句を言いそうなところだ。
でも、仁はおいしそうに食べる。
あかりも。
佳苗が味噌汁の味が薄いことに気付いても慌てても、別にたいしたことじゃないと言う。
佳苗らしくて、ほっとすると笑うのだ。
この数年、仁のこういう姿を見ていたのに、今さらになってこんなことを考える。
どうして今まで気付かなかったのだろうか。