たびたび、仁は俺を本当の意味で侮蔑することがあった。


 いつものただの面当て合戦ではなく、一方的な軽蔑の眼差しを向けることがある。


 そのたびに、劣等感と、どこか恐ろしさを感じていた。



「わかってない?無神経で仁のことばっかりの馬鹿女だろ」



「お前、女々しい。そこまで言うなら別れろよ。無神経で馬鹿なんだろ?佳苗、こいつにかける安酒ないか?」



「仁、離婚」



「………………」



「仁、離婚」



「……佳苗サン、考え直していただけませんかね?」



「全然、反省してないじゃないっ!!」



「……それでも好きなんだ。水野しか俺には考えられない。あいつがいないと俺はダメなんだ」



「……ふ~ん。小春がいてもダメな人間だけど、昔より少しマシになったんだろうな」



 俯く俺を仁が見ているのがわかった。


 顔を上げることなどできるはずもない、あまりに情けない顔をしているのがわかったから。


 仁に負けたくない、劣っているなんてありえない。


 そう思っていたけど、もはや俺は仁に敗北したのだ。


 プライドを捨ててこんな姿を晒すなど、今すぐ死んでしまいたい。