「上原から……?」

初めてもらう手紙に、ドキドキする気持ちが止まらなくなる。俺はその場で手紙を読んだ。そして、体の震えが止まらなくなる。

「嘘、だろ……」

手紙の文が、頭の中をグルグルと回る。嫌だ。嘘であってほしい。しかし、それを否定してくれるはずの上原はどこにもいない。

周りで話すクラスメートの言葉は、俺の耳には聞こえてこない。上原の生きている世界が、少しだけ見えた気がした。そして、俺はすぐに走り出す。

「音無くんへ
 私、お父さんの仕事の都合で北海道に今日、引っ越すことになったんだ。音無くんが二時間目の授業が始まる頃、私は北海道に旅立ちます。本当はこんな形じゃなくて、ちゃんとお別れを言うべきだったかもしれない。でも、音無くんにこれを言ったら涙が止まらないような気がして怖かった。だから、手紙にします。
音無くん、私のために手話を覚えてくれてありがとう。初めて音無くんを見た時に、怖い人かなって一瞬思ったけど違うってわかった。だって、音無くんの目には寂しさが隠れていた。音無くんは「そんなことない」って否定するだろうけど、女の勘を馬鹿にしないでね?