「ねぇ阿咲未,聞いた?」


「何を?」


私は夏村 阿咲未(なつむらあざみ)。学力は定期テスト学年1位。


運動は人並み程度。そのせいか、ガリ勉とよく言われる。



「だから、人の心を軽く出来るっていう………なんだっけ?なんとかカフェ。」


「あぁ、最近よく聞く『古民家カフェPAST』でしょ?」


彼女は、私の親友の根本 蘭(ねもとらん)。蘭は学年1モテて、取り巻きがよくついて来る。



「よく覚えられるね。私覚えられないよ。」


へらっと表情を緩めて笑う。


今日も蘭は最強にかわいい。



「確かめに行かない?心が軽くなるのかどう   か。」









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というわけで、私と蘭は『古民家カフェPAST』に行くことになった。


しかし、わかるのは住所のみ。
写真とかはないみたい。


「一応、住所はここになってるけど……」

「まぁ、入ってみようよ!看板も置いてあるし、  間違いないって!!」


はしゃぎ気味に『古民家カフェPAST』に入って行く蘭。


間違っては無いみたいだし、入るかな。


先に入った蘭を追って、お店に入った。


ーカランカラン


金属の音が店内に響いた。私達以外には来てる人はいないみたいだ。


「いらっしゃ〜い。」


金属の音に気づいてきたのか、奥から黒茶色の綺麗な髪をした女性が出てきた。


「あ、こんにちは。」


「私は木村 渚(きむらなぎさ)っていうの。   よろしくね。」


「私は、根本蘭で隣の子が夏村阿咲未です!」


「よろしくお願いします。」


コーヒーのいい匂いが店内に漂ってきた。
さっそく、本題に移ろう。


「あの。心を軽くするって聞いて来たんですけ
 ど。」


「ん〜?そうなの?まぁ、心を軽くするっていうの
 も間違いじゃないけどね。私は、お客さんの悩
 みを聞いてるだけだよ。だから、特殊なことを
 してるってわけじゃあないの。」



「なーんだ。そうなのか。」


蘭がつまらなそうに口を尖らせて言った。



「でも、悩みがあって来たんじゃないのかな?」


渚さんが言った。


すると、蘭は盛大なため息をつき


「やっぱ、凄いなぁ。実は………あるんですよ。悩み。」


蘭はしばらく話すのを躊躇っていたが、話し始めた。



「実は、中学生の頃に仲が良かった子たちが居たんです。最初の頃は、全然良かったんですけど、だんだん、私だけ買い出しに出されたり、ジュース奢らされたり、ハブられるようになったんです。それで、仲が良かった子たちに言ったんです。なんで私だけ買い出しに行ったり、ジュース奢らなきゃいけないの?って。」



少し、スカートの裾を握った。その先は、だいたい分かってしまう。嫌というほど私にもわかる。



「そしたら『え?何言ってんのかな?あんたはうちらの引き立て役だよ?友達だとでも思ってたの?うわー自意識過剰すぎ〜。ウケるんですけど〜』って言われて。それから、上履きを隠されたり、教科書がなくなったりして………」



渚さんがカウンターから手を伸ばして、蘭の頭を撫でた。


その瞬間、ダムが決壊するかのように蘭の瞳から大粒の涙が溢れた。




「辛かったね。苦しかったね。よく頑張った!偉いよ。ごめんね、辛い思い出話さしちゃって。」


「いえ。大丈夫です。ごめんね?阿咲未。嫌いになったでしょ。友達やめても「そんな事、思わないよ。思うわけない。辛いのに、話してくれてありがとう。けど、これからは何かあったら相談して?話、聴くからさ。」



いつの間にか、私が席をたって蘭に言っていた。


「流石に、過去は変えられないけどさ。これから変えることはできるし後ろ見たって学ぶことはないでしょ?」


「そうね。過去の失敗から学ぶことはあれど、過去そのものから得るものは少ないからね。」


渚さんが私の言いたかったことを言ってくれた。


「うぅ。阿咲未〜ありがとぉ〜。」





それからしばらくは、蘭は泣き止まず30分くらい泣いてた。










「それじゃあ渚さん。今日はありがとうございま
 した。」


席を立って忘れ物がないか確認した。



「いえいえ〜お気になさらず。そうだ!今バイト募
 集中なんだけど、阿咲未ちゃんどう?」



バイトかぁ丁度探してたんだよね。せっかくだからやってみようかな。


「ぜひ。やらせてください!」


「蘭ちゃんもまた、来てね。いつでも歓迎だから!」

「はい!また来ます!」




「いや〜ウワサは本当だったね。」


「だね!むしろ、『阿咲未が』だったけど」







明日からのバイトはどうやらやりがいがありそうだ。