「先輩って照れとかないですよね…」
ボソッと、橘くんが呟いた声は、周りの肝試しを待ちわびている人たちの声と、夜風の音にかき消されて、私の耳には届かなかった。
「なにかいった?」
「…なんでも」
聞き返してはみたものの、なんとなく、橘くんは答えてくれないんだろうなって思ってた。
いつもはっきり物事を言う橘くんが、周りの声に消されるくらい小声で言ったんだから、聞かれたくないことなんだろうなって思うから。
だから、追及はしないでおく。
「そっか…、そういえばね、空くん風邪ひいちゃって今日来れないんだって」
なんとなく、空くんの話題を出すと
「空先輩って風邪とか弱そうですもんね」
なんて言っちゃう橘くんは、言ってることすら冷たいけど、顔は少し綻んでいる気がした。
気がするだけだけど…。

