「おまえ、魔女だろ!?………くるな!あっちいけっっ!化け物っ!!」
 「え…………」
 「魔女なんて消えろ!」


 そう言って怯えた、悲鳴のように叫ぶ少年の顔。それは、先ほどとは全く別人であり、普通の少年だった。

 けれど、それを見ても空澄は安心など出来なかった。


 少年の言葉と、表情は自分のせいなのだ。
 それを頭で理解した瞬間、ショックで頭を殴られたような衝撃が走った。


 「違う!君が私の事を切りつけたから…………!」


 そこまで言った頃、騒ぎを聞き付けて近所の住民たちが集まり始めているのに気づいた。
 空澄を見る大人の視線。それはとても冷たく、怖がっているのがわかった。
 少年が魔女だと叫んでいるのを聞いた人がいたのだろう。


 「っっ!!」


 空澄は少年に背を向けて、走った。


 どうしてこんな事になるの?
 怖い………他人の視線が、言葉が怖い。

 そして、何よりも怖いのは自分だ。


 空澄は涙をボロボロとこぼしながら、必死にその場から走り去った。

 腕の傷の痛さなどもう感じられなくなっていた。

 「助けて………希海、助けてよ………」


 祈るようにそう呟きながら、空澄は走り続けた。