その瞬間。

 空澄の体から小さな竜巻のような風が突然発生し、少年へと向かっていった。
 少年は「チッ………」と、舌打ちしたのがわかったが、その後はわからなかった。風が少年の体を吹き飛ばしたからだ。
 少年はそのまま数メートル飛ばされて、地面に落ちた。空澄はハッとして、その小学生に駆け寄ろうとした。彼はカッターナイフを手から離しており、少し先の道路に落ちているのがわかった。


 「………君、あの………大丈夫………」


 そう言って少年の近くまで恐る恐る近づく。
 凶器を持っていたからと言って、自分よりも小さな少年に魔法を使ってしまった事に焦り、そして後悔した。少年がまるで人形のように軽々と飛んでいってしまったのを見て、空澄は体が小刻みに震えてしまっていたのだ。
 とんでもない事をしてしまった。自己防衛以上の事だ。

 少年の怪我が心配だったけれど、やってしまった事から駆け寄る事が出来なかった。現実を見るのが怖かったのだ。

 もう少しで少年の顔が見える。それぐらい近づいた時だった。男の子が、顔に苦痛を浮かばせながらゆっくりと体を起こした。
 それを見て、空澄は少しホッとして、少年に手を伸ばそうとした。が、その少年は空澄を見た瞬間に顔を真っ青にして、表情を歪ませた。