あの時のように、璃真が居なくなるかもしれない。唯一の家族がいなくなるかもしれない。
 10年前の今日という日。
 その日を思い出して、空澄は体がブルッと震えた。4月の頭で確かに夕方は寒いけれど、自分の手は氷のように冷たくなり、頭の中「璃真がいなくなったら、どうしよう」という事ばかりだった。
 お兄ちゃんという頼れる存在。
 親友という何でも話せる存在。
 家族というどんな事も相談出来、信頼できる存在。

 そんは空澄の中で大きすぎるほどの存在である璃真がいなくなる。

 それを考えただけで動悸が早くなり、そして、ふらりと眩暈さえ感じ始めた。

 私は独りになる………?


 空澄は何とか建物に壁に寄りかかり、やっとの事で立っていた。待ち合わせをしている人が多いこの場所で、空澄の行動はおかしいものだったのだろう。周りの人々が眉をひそめて、チラチラとこちらを見ていた。

 ダメだ。まだ、彼に何かあったと決まったわけではない。そんな事が起こるはずもない。そう自分に言い聞かせながら、空澄は落ち着くために大きく深呼吸をしてから、そろそろと壁から体を話した。ザラザラとした素材の壁だったのか、手のひらにはポツポツと小さな凹凸の穴が出来ていた。



 「空澄っ!!どうした………?!」


 すると、遠くから聞きなれた声が聞こえ、空澄はパッと顔を上げた。すると、焦った表情で駆けてくる璃真の姿があった。