13話「ぼやける背中」




 夕食が終わった後の事。


 「希海。………私、ちょっと出掛けてきていいかな」
 「ん?何処に行くんだ?」
 「………公園。沼の公園だよ」
 「あぁ………邪魔にならなら俺も一緒に行ってもいいか?」
 「うん。もちろん」


 希海は心配だからと言っていた。
 けれど、彼もその場所に行きたいのだろう。希海だって、昔から璃真と近くに居たのだから。

 すっかり夜になった道を2人で歩く。
 彼が何か呪文を唱えていたけれど、言葉を覚え始めたばかりの空澄にはまだ意味はわからない。けれど、それもきっと空澄を悪いものから守るものなのだろうと思った。

 ゆっくりと言葉もなく歩く。けれど、今はそれが心地よかった。


 公園に到着し、沼まで下がる。もうすでに進入禁止の黄色のテープは張られていなかった。

 璃真の白骨の遺体が何処で見つかったのはわならない。けれど、沼の端の方にベンチが置いてあるスペースがあった。ベンチの横に立ち、空澄は沼を見つめた。希海もそれにならい同じように沼へと目を向ける。そして、2人で手を合わせ、目を瞑り祈りを捧げた。

 それは、璃真なのかもしれないし、別の誰かなのかはわからない。けれど、こうしてここに来て冥福を祈らないといけない気がしていた。
 璃真だと信じられない。けれど、もし誰か別の誰かだとしたら、今誰にも気づかれずにいるかもしれないのだ。
 そう思ったら、居てもたってもいられなかったのだ。
 空澄は短い時間だが、心の中で祈った。安らかにお休みください、と。