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 空澄の家の前に、その男は一人立っていた。
 赤みがかった髪に垂れ目の、少し童顔な男だった。

 やっと体の調子が戻り、花里家の家に帰ってくると、少し前より強力な結界が張られていた。
 それに触れれば指が一瞬で消えてしまうだろうというぐらいのものだ。それは、魔女や魔王だけがわかるものだ。魔力で作られているのだから当たり前だが。


 「………そして、微かに花里の魔力の気配もある。あの女が………いや、違うな。鴉か………」


 鴉が結界をはっているのは知っている。
 だがその結界から花里の魔女の気配を感じる理由。それは、鴉が花里の純血の魔力を譲渡されたと言う事だ。


 「俺が始めに目をつけていたのに………絶対に空澄は俺のものにするんだっ!!」


 空澄の家の前で、そう呟いた男は手を強く握りしめた。手のひらに綺麗な形の爪が食い込み血が出そうなほどの力だった。

 しばらくすると、その男は音もなくその家から離れた。


 もうこの家に「帰ること」はないのだから。