近くの駅に着いてからは、璃真とは違う電車に乗るので改札で別れる。


 「今日の約束覚えてるよな」
 「うん。今日はダブルバースデーのお祝いだからね」
 「そうそう。場所は僕が予約してあるから、教えた駅で待ち合わせね」
 「うん、わかった。じゃあ、また後でね」
 「あぁ………。なぁ、空澄?」
 「ん?」


 離れる間際、璃真は空澄の手を取った。
 彼の手はとても冷たく、空澄は驚いてしまった。けれど、璃真の表紙がとても真剣で、まっすぐ見つめられていたので何も言えなくなってしまう。


 「………ごめん、何でもない。話は夜するよ」
 「何?気になるよ……」
 「遅刻するから。……仕事、頑張って」
 「うん」

 
 先程の彼はもうそこには居なかった。いつもの優しい笑顔の璃真が目の前に居る。普段の違う様子に戸惑いながら、空澄は彼に向かって手を振って見送った。
 いつもならば、すぐにホームに向かうはずだが、今日は璃真が見えなくなるまで背中を見つめていた。
 そうしないと、何故だか彼が消えてしまうような気がしたのだ。



 その予感は当たっていたのだと気づくのは随分後になってから。
 この時から、空澄の今までの「普通の生活」を過ごすことは出来なくなる事のだった。