「…………あなたの瞳、海に似ている」
 「…………」
 「そう、この黒くて深い紺色は鴉の海に似てるの!………って、鴉だから違う………」
 「そうだよ」
 「え?」
 「俺は、空澄がいつもチーズをあげていた海だ」

 そう言い、希海は得意気に笑ったのだった。










 「………鴉だったって………嘘でしょ?」

 空澄は独りそう呟いていた。
 その後、くしゃみを連発してしまった空澄は希海が「話は後にして、風呂が先だな」と、強く入浴を勧めたためにお風呂に入る事にした。湯船に浸かりながら、先ほどの希海の言葉を思い出し考えていた。
 溺れていたところを助けてくれたのが、あの鴉の海だというのだ。そんな事は信じられない。
 鴉が人間になるなんて、ありえない。
 そんな「普通ならばありえない事」が、魔女や魔王には出来るのだろう。そう考えると、鴉の海が希海だというのも、本当の事なのかもしれない。
 空澄の事をよく知っており、この家も知っているようだった。それに、空澄自身が彼に不思議な親近感を持っていた事が、彼の言葉を信じる一番要因になっていた。

 けれど、希海が何故鴉になって空澄の周囲にいたのかは謎のままだった。
 そして、空澄が魔力を使ったというのはどういう事なのか。

 そんな事を悶々も考えているうちに、空澄は大きくため息をついた。