腫れ上がった目をゴシゴシと擦り、涙を我慢した後、空澄は沼の近くをゆっくりと歩いた。
 璃真の白骨が落ちていた場所で泣くために来たのではない。スマホが落ちていないか見に来たのだ。空澄は自分に言い聞かせて、その沼の周辺を歩き回った。葉の葉の間を見たり、道の端を見たり、木々の間に入り奥の方まで探してみるが、彼のスマホはなかった。


 「警察も探してるし、あるはずないよね………」


 大きくため息を付き、沼を見つめた。その沼はとても綺麗だと言えるものではない。濁っていて、そこに魚がいるのが信じられないぐらいだった。

 
 「沼に落ちてたら、璃真……見つからなかったよね……見つけてくれた人に感謝だなー……ん………あれって………」


 独り言を呟き、沼の端に目を向ける。すると、自然物とは言えない黒い物が落ちていた。沼の端に流されているようだった。璃真のスマホも黒色だ。


 「もしかして、璃真のスマホ?!」


 空澄はそう思うと、すぐに行動していた。
 トレンチコートとマフラー、そしてスマホと鍵を通路の端に置いた。沼に落ちてしまった時に無くしては困ると思った。一気に寒さを感じたけれど、そんな事を気にしている暇もなかった。
 沼へ入るために腰ぐらいまである柵を越えて、沼ギリギリの草が生えているところを慎重に歩く。木を掴みながらスマホが落ちているところまで歩いていく。シューズはすっかり泥だらけになってしまったけれど、そんな事は気にしてはいられない。

 沼の丁度真ん中ぐらいまで来たところに目的のスマホがあった。


 「よしっ!もう少しだっ!」


 空澄は自分の真下にあるスマホを取ろうとゆっくりと体をしゃがませた。手は細い木の枝を掴み、落ちないように慎重に腕を伸ばした。
冷たいスマホの感触を指先で感じ、空澄はそれを掴んだ。


 「やった!とれ………っっ……きゃっ」


 バランスを崩してしまったのか。それとも地面がぬるんでしまったのか。空澄の体はぐらりと沼へと傾いた。枝を必死に掴むけれど、細い枝だったのが失敗だった。空澄の体重に堪えきれずに無惨にも折れてしまった。

 空澄の体は沼へと投げ出された。
 持っていたスマホを守るように、空澄はスマホを胸に抱きしめたまま、空澄の体は沼に落ちていった。