空澄はじとっとした視線を目の前に座る璃真(あきさね)に送りながら、手を合わせて挨拶をした。
 新堂璃真は空澄の幼馴染みだった。
 両親を早くに亡くした2人は、空澄の家で共に暮らしていた。学生の頃は空澄の祖母が面倒を見てくていたが、社会人になる少し前に祖母が亡くなってからは、空澄と璃真の2人きりで暮らしていた。空澄は小さな会社のOLで、璃真は大手銀行のSE(システムエンジニア)だ。彼は「空澄の家で暮らしているのだから」と家賃を入れてくれていた。空澄は断っていたが、勝手に毎月入金してくるからたちが悪い。毎月多めに入れるため、空澄の貯金はかなりの額になっていた。そのため、光熱費や食費などは全て空澄もちにしていた。

 黒のスーツを着た璃真は、背筋をピンっと伸ばしたままとても上品に朝食を食べていた。ふわふわな茶色の髪に、少し明るい赤茶色の瞳。柔らかい雰囲気の顔にとても合っていた。身長も高くほっそりとした体のため、璃真は昔からモテていた。それなのに、彼女が居た事はほとんどなかった。


 「何?僕の顔に何かついてる?」


 彼の顔を見たままボーッとしてしまっていたため、璃真が怪訝な顔で空澄を見ていた。隠すことでもないので、空澄に今の気持ちを彼に伝えることにした。


 「璃真はかっこいいし料理も上手いし、お金だってあるし、仕事も頑張ってるし……それなのに何で彼女作らないかなーって」
 「何それ」
 「だって、そうでしょ?お花見デートとか行かないの?」
 「そんな相手いないよ」
 「勿体ないねー」


 その話は終わりとばかりに璃真はサンドイッチに噛りついた。こう言う恋愛話になると、璃真とすぐに話を終わりにしてしまう。
 空澄は苦笑しながら仕方がなく、食べることに集中したのだった。