小檜山とお茶を出してくれた女性は、空澄の家に来てすぐに璃真の部屋に入った。簡単に部屋の中を調べた後、落ちていた髪の毛を数個採取した後はすぐに帰ってしまった。

 その頃にはすっかり日が落ちて夜になってしまった。

 残されたのは、空澄だけだった。

 一軒家に一人だけ。
 もう普段ならば璃真は帰ってくる時間。それなのに、彼がドアを開けては「ただいま」と帰ってくる事はなかった。
 呆然とリビングに座り、キッチンを見つめていた。璃真が黒いエプロンをつけて料理する事もないのだ。「今日は何を食べたい?」「手伝いはいいよ」「ほら、空澄。一緒に食べよう」そんな声と彼の笑顔が思い出せるのに、そこには誰もいない。璃真用の茶碗やコップなどの食器も使われる事がない。

 ガタッと窓が鳴った。
 空澄はすぐに立ち上がりカーテンを開ける。
 けれど、そこには誰もいない。ただ風で窓が軋んだ音なのだろう。庭に木々が揺れていた。


 「璃真………どうして、こんな事になっちゃったの………ねぇ、璃真………まだ、告白の返事もしてないよ……また真ん中バースデーやろうよ………璃真……あき…………っっ」


 ボロボロと大粒の涙が流れ落ちた。
 璃真の白骨と対面した時よりも、空澄は泣き続けた。この涙は止まるのだろうか。そんな事も考えられないほど泣いて泣いて泣いた。


 空澄の生活にも記憶にも全てに璃真がいる。そんな彼が突然いなくなってしまったのだ。それを受け入れる事など出来るはずもない。
 目や鼻を真っ赤にして泣き続けた後、空澄は引き取ってきた彼のバックを抱き締めたままリビングのソファで倒れるように眠った。