「………お、お電話変わりました。花里です」
 『あぁ。こちら宮森警察署の小檜山という者です。花里空澄さんで間違いありませんか?』


 電話口から若い男の声が聞こえた。とても落ち着いた、そして低く少し冷たさを感じる声だった。


 「はい、そうです」
 『新堂璃真さんと同居されているのですね』
 「はい」
 『新堂さんの親族がいらっしゃらないと言う事だったので、同居人である花里さんにご連絡させていただきました。………花里さん、落ち着いて聞いてください』
 「…………璃真に何かあったのですか?」


 相手の声のトーンが更に低くなったのを耳にして、空澄は嫌な予感がした。
 次の言葉を聞きたくない。何か悪いことを言われるのが何となく予感していた。
 声も体も震えている。
 頭の中には優しい笑みで空澄を見る璃真しか考えられなかった。

 しばらく間があった後、小檜山が口を開き息を吸うのがわかった。その瞬間、空澄は体に力が入り、全神経が耳に集中しているような錯覚に陥った。

 怖い。聞きたくない。何も知りたくない。

 そう思っても、次の言葉は無惨にも告げられてしまう。



 「…………新堂璃真が遺体で発見されました」



 この瞬間、空澄の周囲の時間が止まったように、音が消えた。
 窓の外には、真っ黒な鴉が空澄を見ている事もなく、空澄は独りきりでその宣告を聞いていたのだった。