この男は何を言っているのだろうか。
 私は彼の人形になるという事なのかもしれない。ただ体を重ね彼に魔力を与えるだけの存在。生きているのか死んでいるのかもわからない生き方。

 そんな自分の姿を想像しただけで、空澄は恐怖でガタガタと震えてしまう。
 魔法を使わなければ。早く呪文をとなえて彼から離れなければ。
 そう思っているのに、声がかすれて何も出なかった。


 「怖がらなくてもいいさ。君が大人しくしていればそんな酷いことはしない。可愛がってあげるよ。…………私のお嫁さん」
 「……………」

 
 無力だ。
 魔女の力があるというのに、何も出来ない。
 怖がって助けを呼ぶことしか出来ない。
 そんな事で人を助けられる魔女になんてなれるのだろうか。
 必死に守ってくれた璃真。いつも見守って優しく励ましてくれていた、希海。
 彼らに守られているだけだとわかっているのに。魔女としての力が足りない。どうしていいのかわからない。
 …………怖い。
 もう、何も出来ない。


 「………はぁ………また、邪魔が入ったな」
 「………え?」


 空澄から離れ、小檜山は立ち上がると遠い空を見つめていた。そこには、赤い光が見え、それがどんどん大きくなってきた。


 「空澄ー!!」
 「…………あ…………、希海?……希海なの………」


 遠くから聞こえてくる微かな声。
 けれど、それは愛しい彼の声で、聞き間違える事はないものだった。

 彼は炎を纏いながら、真っ直ぐにこちらに向かっている。


 冷たくに睨む小檜山と真っ直ぐ強く見つめる希海の視線がぶつかった時。
 2人は同時に魔法を放ったのだった。