25話「ほそく笑む唇」




 穏やかな時間というのはあっという間だった。


 「魔女官から連絡が来たから行ってくるな」
 「………うん。希海が呼ばれるなんて何だろうね。私も一緒に行こうか?」
 「大丈夫さ。話があるだけだろう。外の方が危険なのだから、空澄は家に居た方がいい。勉強もしたいだろ?」
 「………ありがとう。希海、気を付けてね」
 「あぁ………いってくる」


 そう言って、希海は空澄に軽いキスをした後にニッコリと笑って家を出た。
 彼が用事があり、家で一人で居ることなど多くある。いつもと変わらないはずなのに、空澄は妙な胸騒ぎを感じ、希海が出掛けてしまう事が心配で仕方がなかった。それでも、魔女官に呼ばれたとなると断れるはずもない。
 空澄は、希海が無事に帰ってくるのを待つしかなかった。

 璃真の荷物から見つかった、空澄に遺した手紙。その事について、空澄はまだ彼に何も聞けていなかった。
 聞きたいことは沢山ある。それなのに、彼に聞けない。
 ………今の空澄と希海との生活や2人の関係が変わってしまいそうだと思うと前に進めなかった。
 大切な人が出来ると、強くもなるけれど、守りたいと弱くもなるのだろうか。そんな事を思いながらも、毎日のように璃真の言葉の意味を考えていた。