顔を上げる直前。空澄は璃真に正面から抱きしめられていた。背の高い彼の胸元に空澄はすっぽりと埋まってしまう。
 突然の事に驚き顔を上げると、そこには璃真の切なげな瞳で空澄を見る彼の表情があった。
 それは触れれば壊れてしまいそうな、とても悲しく今すぐに泣き出してしまうのでは、と思うぐらいの顔だった。

 
 「璃真…………どうしたの?」
 「空澄。僕は君が好きだ」
 「…………え………」


 璃真はゆっくりと空霞の頬に手を添えた。
 やはり彼の手はひんやりとしている。まるで新雪のようだった。


 「………僕は空澄が大好きだよ。でも、この気持ちを伝えたら、君を迷わせてしまうし、きっと辛い思いもさせる」
 「………璃真」
 「きっと、僕は明日も告白すると思う。だけど、それには答えてはダメだ。もし何かあったら、空澄のお母さんの呪文を唱えて」
 「え?………それはどういう事?」


 璃真が何を言っているのか理解することが出来ず、彼に質問するけれど璃真はそれには答えず、優しく微笑むだけだった。


 「けど、覚えていて。今日までの僕は君が何よりも大切だった。君が大好きだったんだ。誰よりも可愛くて、寂しがり屋で優しい………空澄の笑顔が好きだよ」


 ゆっくりと大切に言葉を紡ぐと、璃真は先程より強く強く空澄を抱きしめた。
 璃真の告白を聞いて、ドキドキしたはずだった。1番近い人に「好きだ」と言われて、喜ばない人はいないだろう。けれど、彼を恋愛対象手して見ていなかった空澄は驚きが多きかっま。
 そして、璃真の言葉や雰囲気、そして表情が空澄を不安にさせていた。


 それはしばらくの間続き、空澄は彼の体温や鼓動を感じながら、言い様のない不安に襲われていたのだった。