22話「それぞれの魔法」




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 恋人になったばかりだというのに、その相手が家にいるというのは不思議な気分だった。
 朝起きて、顔を会わせてお互いにはにかみながら挨拶をする。それが、妙に気恥ずかしくも嬉しくて、空澄は笑ってしまう。希海も同じようで「まぁ……何だ、これからもよろしくな」と言って空澄の髪に小さく口づけを落とした。
 そんな事だけで、胸がくすぐったくなるのだから、恋愛というのは不思議だなと思ってしまう。
 


 「今日は店に尚美さんの店に行ってみるか?」


 希海の提案は、空澄が待ち望んだものだった。ずっと行ってみたかった両親の魔女魔王としての仕事場。どんなお店で、どんなお客さんがいるのか。それが、とても楽しみだった。


 「初めは俺のやり方を見てればいいから。少しずつ仕事内容を覚えてみよう。薬とかになるから、間違えは絶対出来ないから、慎重に」
 「うん……そうだね!!」


 希海が真面目にそう話すのを、空霞は少し強張った表情で頷く。その顔を見て、希海は苦笑した。


 「悪い。怖がらせるつもりはなかったんだ。………お客さんと話をしたりするのも大切だから、そんなに怖い顔しなくてもいいさ」
 「………そんなに怖い顔してた?」
 「あぁ。眉間に皺があった」


 希海は空澄の眉間を指で優しく押しながら、そう言った。
 緊張しすぎて怖い顔になってしまってはダメだ。きっと両親は空澄に見せてくれたようにいつもニコニコと優しい雰囲気でお客さんに接していたはずだ。
 空澄は大きく呼吸をして、自分に「落ち着け」と言い聞かせながら、希海と店まで向かう事にしたのだ。