だから、両親に本当のことは言っていない。



学校が嫌いなこと。


いじめられていることも。


自分の耳が本当は嫌なことも。



普通に聞こえる人達を羨ましく、妬ましく思ったことも。



どうして、私だけ、……ってことも。




だけど、今まで言えなかったことを太宰さんには打ち明けられた。



きっと、太宰さんと私は何の繋がりもないからなのかもしれない。



ちょうど良い関係。



素直な気持ちで伝えられた。



なんの迷いもなく。



──不思議だ。




気づくと筆談用のノートに私の涙がボタボタとこぼれ落ちていた。




太宰さんが無言のままティッシュを私に差し出した。



【今まで、本当に色々と辛かったんだね。ありがとう、僕に話してくれて】



【……ありがとう?】





【話しにくいことなのに、僕にこうしてきちんと話をしてくれたことが嬉しかったんだよ】




太宰さんが優しく微笑んだ。




それはまるで陽だまりのような微笑みだった。




「辛いと思っていたのは、僕だけじゃなかったんだ──」




太宰さんがそう呟いたのがわかった。



私にはこういう人が必要だったんだとこの時実感した。



時計を見るともうすぐ日付がかわろうとしていた。



翌朝に備えて私と太宰さんはそれぞれの自分の部屋に戻った。