「……天気雨」


不意に顔を上げた寿人さんが
じっと窓の外を見て、ぽつりと呟く


「え?……ああ、本当だ
狐の嫁入りですね」


隣でのんびりお茶を飲んでた私は
寿人さんと同じように窓の外に視線を向けた


明るい光が指す中
地上に降り注ぐのはシャワーのように柔らかい雨


「狐の嫁入りは縁起がいいそうですよ」

「ああ……確かによく聞く
なんか良いことの前兆だって」

「良いことがあるかどうかは別として
綺麗だなとは思います」



太陽に雨粒がきらきら反射して
まるで光が降り注いでるみたいで

音も優しいし



「私は好きです」



立ち上がって窓を開けて、空を仰ぐ



「うん。俺も嫌いじゃない」



隣にやってきた寿人さんが小さく微笑む



「何か良いこと、あるといいですね」

「良いことなんて起こらなくても
俺はいろはが隣にいればそれでいい」


おもむろに伸びてきた手が私の髪に触れる


「傍にいろはがいるだけで俺は満足」


向けられる優しい表情に

慈しむような眼差しに


……じわじわ、顔に熱が集まる



「………前から思ってたんですけど
寿人さんって、ずるいです」

「?なにが?」


私の髪の毛をいじりながら
寿人さんはきょとんと首を傾げる


「……どうしてそう言うこと
さらりと言っちゃうんですか……」

「そう言うことって?」

「私が……嬉しいって思うこと」