「これを、あなたの同居している方に渡してほしいのです」

男性は手紙を私に手渡す。そこに書かれた名前に、私は驚いて目を見開いた。

「アルセーヌ・ルパンってあの……!」

アルセーヌ・ルパンは世界中を飛び回る怪盗だ。狙った獲物は逃さず、どんな厳重警備の中でもたやすくダイヤなどを盗んでいく。アルセーヌ・ルパンの先祖も怪盗で、先祖の名前を受け継いだとホームズさんから聞いたことがあるけど……。

「あなたは、アルセーヌ・ルパンなんですか?」

「ええ、そうですよ」

ルパンさんはそう微笑み、私の手を優しく取る。その手の優しさに、私は振り払うことができなかった。

「シャーロック・ホームズはずるいですね。こんな可愛らしい女性と暮らしているだなんて……」

「か、可愛いなんて……」

顔を真っ赤にする私にルパンさんはニヤリと笑い、私の手の甲に口付ける。まるで王子様がお姫様にするようなキスに、私の口から声が漏れた。

「では、その手紙をお願いしますね。Au revoir(さようなら)」

ルパンさんは微笑み、闇の中へ消えていく。私はキスをされたことで、ズルズルとその場に座り込んでしまった。