ただ、違うことは鼻を突き抜けるような強烈な匂いが全くしないということだった。
暫くすると、突然その黒いシミから淡く白い煙のような光が立ち上ぼりたちまち全身の骨が浮かび上がった。
そして、またその黒いシミから赤い血と筋肉や人の体に必要な臓器が次々と浮かび上がっては、自分の元の場所を探すかのように白い骨の上を這い上っては絡み付いていく。
泰平は愕然としてその光景に見入っていた。
色々な物が順々に戻るべき元の場所に戻り、やがてそれは人の姿となった。
泰平が今目の前にしているのは泰平が最初に出会った頃の初々しい渡辺 紗永の姿だった。
泰平を含め多くの社員が入社式の時に控えめで品があり何とも言えない可愛らしい容姿を持っている紗永に自然と目を惹き付けられた。
儚げな表情の紗永は薄く口を開いて笑い泰平に「──さようなら」と言葉を残し背を向け、そしてまるでシャボン玉がパチンッとはじけるように姿を消した。
「……紗永」と泰平が手を伸ばしたが、もうそこには誰もいない。



