あの床の黒い染みは深く染み込み過ぎていた。
あれから3日間いくら特殊な薬剤を使っても全く取れる気配がなかった。
結局、業者を呼びフローリングの床ごと綺麗に取り替えることになったのだ。
武市さんと村上さんが言っていた。
紗永がきっと亡くなったのは猛暑の夏頃、そして死後二年ほど経っていると──。
泰平と武市と村上が綺麗になった部屋に線香と花を供えて最後に部屋を出る。
線香の匂いが泰平の胸をぎゅっときつく締め付けた。
とても短い間の出来事だったが紗永の死生観を泰平は自分の体の五感の全てで目の当たりにしたような気がした。
泰平は思う、ハイツの201号室、渡辺 紗永の思いが沢山詰まっている部屋だったんだと。
泰平が車に乗り込む前に一度足を止めた。
駐車場で小鳥達の囀りに目を瞑って耳を傾ける。
あの小鳥達は愛の言葉を交わし合っているのだろうかと泰平は思った。
顔を上げて両目をゆっくりと開くと大きな青い空が広がっている。
俺はいつまで経ってもあの大きな空には絶対に勝てないと思った泰平。
社会性も思いやりも、愛情も……色んなことが自分には欠けていたんだと心の底から思い、青く澄み渡る空をずっと見上げていると自然と泰平の目から一筋の涙が流れてきた。
「……紗永。本当に、ごめんな──」
その時、泰平のスマホがブルブルとふるえて鳴った。
スマホの画面の表示は岸川 亜紀だった。



