「おー、やっと戻ってきたか。つうか、いきなり電話切るとはいい度胸だな」

 衣装に着替えグラウンドに姿を現したわたしに、皇くんがどかどか大股で詰め寄ってくる。けれどなにかに気づいたように腰を曲げて顔を覗き込んできた。

「顔、赤すぎじゃね? 熱中症か?」
「のぼせた……」

 わたしは前髪をくしゃりと掴みながら一言呟く。
 逸る鼓動は収まることを知らない。火が点いたような体中の熱がちっとも引いてくれない。
 だってまさか先生に抱きしめられるなんて。

 ――あの後、ゆっくりと腕を離した先生は「気をつけろよ、足下」とだけ言って、わたしの頭にぽんと手を置き行ってしまった。
 その時の表情を窺うほどの余裕はなく、呼び止める勇気もなかった。

 どうして抱きしめたんですか、先生。わたしの気持ち、知ってるくせに。