桃の体になって、初めてしっかり言えた。

 すると、先生は静かに頭を下げた。

「……ごめん」
「先生……」
「お前は生徒で、俺は先生だ」

 答えは分かっていたはずなのに、きゅうと胸が苦しくなって、先生を見上げていた視線を落とす。すると先生は、目の前にしゃがみ込んだ。視線の高さが同じになる。濡れた前髪の間から覗く深い海のような瞳に、わたしを閉じ込める。

「それに俺の心の中にある、彼女を想う気持ちを消せない。だから、森下を一番に考えてやれない」

 フラれたはずなのに、先生の言葉はすっと胸に入ってくる。
 こんなにも一途な人を好きになれたのだと、鼻の奥がつんとする。

 ……そんなに一途に想っていたら、おじいちゃんになっちゃうよ、先生。

「先生の思い、しかと受け止めました。でも、まだ、好きでいてもいいですか」

 涙の狭間にそう問えば、先生は柔く微笑んだ。

「ああ」