「皇、くん?」
異変に気づいたのか先生も振り返り、皇くんの登場に溜め息をつく。
「皇、また遅刻か」
「寝坊しました。それより、こいつのこと返してもらうんで」
「返すもなにも、別に俺に了承をとることじゃない」
「へー、そうっすか」
先生をまっすぐに見据えて不敵に笑ったかと思うと、皇くんはわたしの手を引いたまま、歩いてきたのとは逆の方向に向かって歩きだす。
「ちょ、ちょっと、皇くん?」
呼びかけても皇くんはこちらを振り返らず、ずんずん進んでいくだけだ。銀色の髪は、なにも答えてくれない。
この状況についていけないまま先生の方を振り向くと、「森下」とその唇がかすかに動いた気がしたけれど、声は聞こえなかったし、遠目だったから見間違いかもしれない。
皇くんの歩幅に合わせ、どんどん先生との距離が離れていく。


