「全然苦痛じゃないんです。だれかの役に立てるかもと思うと、それだけでパワーが溢れちゃって。みんなの喜ぶ顔が見たいから」
必要とされたい。みんなに笑ってもらいたい。いつだってわたしの根底にあるのは、そういう感情なのだ。
けれどそこまで言って、頭をかいて笑う。
「でもやっぱり、空回ってますかね……。へへ」
よかれと思ってしたことは、時に偽善や自己満足と受け取られてしまう。紙一重で、恐ろしい事態を招く危険を秘めていることを知っている。
すると苦笑するわたしを見つめていた瞳をそっと柔く緩め、先生が口を開く。
「もしそうなったら、俺がちゃんと森下の手を正しい方に引っ張ってやるよ。俺はお前の担任だから」
「先生……」
……いつからそんなに頼もしい表情ができるようになったの?
機関車並に逸る心臓の音を聞きながら、先生をまっすぐに見つめた。
「体育祭、頑張るので見ててください」
「ん、分かった」
――波乱の体育祭まで、あと3週間。


