【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい


 元々器用な方ではないし、桃の体でもそれは同様だから、四苦八苦だ。
 自分の腕を揉みほぐしていると、背後から足音が聞こえてきた。そして、突然目の前にパックのりんごジュースが置かれた。

「ずいぶん頑張ってるな、体育祭委員」
「へっ……」

 背後から聞こえてきた声を、わたしが聞き間違うはずがない。
 胸が震えるのを感じながら振り返れば、そこには先生が立っていた。

「せ、先生……っ」
「体育祭で使うもん作ってるんだろ」
「はい」

 すると先生は、涼しい表情を崩さないまま綺麗な唇だけを動かす。

「体育祭委員だからって、森下がなんでもひとりでやる必要はない。そんなの、他の奴らに声かけて、みんなでやればいいだろ」

 淡々と斬り捨てるような口調。だけどもしかしたら先生は、先生なりに心配してくれているのかもしれない。
 梅子だったらきっと、この言葉を責められていると捉えていた気がする。でも桃として先生の隣にいて分かった。先生が想像以上に不器用で、想像以上に温かい人だということを。