「馬鹿だよな。ガキの恋愛をセンコーが本気にするとでも思ってんの? 脳内お花畑ちゃんかよ」
わたしの心に土足で入ってきて踏みにじってくる皇くん。
これ以上はもう許せなくて、彼を振り返り勇気を奮って言い返した。
「好きなんだからしょうがないでじゃない……!」
そう言い切れば、なぜか皇くんが恰好のおもちゃを見つけたみたいに目を細めた。
女子からかっこいいと言われているのをわたしも何度か聞いたことがあるけれど、その笑みは悪魔のそれにしか見えない。
「だからだよ。俺があんたに目をつけたのは」
「え?」
「この前ぶつかった時、俺は一応心配してやったのに、あんたは綾木のことしか見てなかった」
「な……」
まさかその時から心を見透かされていたなんて。
「あんたってほんと、自分の気持ち隠せねぇのな。こんな地味な女にこの俺が告ってもないのにフラれた感じで超ムカついたから、俺に惚れさせることにした」
「へ……?」
あまりに身勝手で傲慢すぎる台詞に、思わず呆気にとられる。
「ほしいと思ったら絶対手に入れる主義なんだよ、俺は。惚れさせるから覚悟しろ。ま、惚れた時には遅いけどな。あっという間に捨ててやるから」
理解の追いつかないわたしを置いてきぼりにしたまま次々と物騒な言葉を並べ、皇くんが窓に手をついた。その手はわたしの顔すぐ横をかすめ、わたしを窓と自分との間に囲い込む。
そして見る人が見れば卒倒しそうな整った顔で、聞く人が聞けば昇天してしまいそうな魅惑的な声で囁いた。
「そのちっせー頭で不毛な恋愛するより、さっさと俺に惚れろよ」
獲物を前にした獣のような瞳に、絶望と共に自覚する。
――ああ。わたしはとんでもない人に目をつけられてしまったみたいだ。