「先生まで巻き込んで……。先生を困らせないで」

 ついに本音がこぼれれば、皇くんが待ってましたと言わんばかりに意地悪な笑顔を浮かべる。

「先生先生って。やっぱりな。森下サン、綾木のことが好きなんだ?」

 突然身構える間もなく図星を突かれ、びっくーんと体を固まらせた。

「なっ、……そ、そんなこと、ないよ?」

 下から覗き込んでくる手加減のない眼差しから逃げるように、不自然に視線を彷徨わせる。
 けれど、「わかりやす」と皇くんの小馬鹿にするような笑みを見て、悔しいけれど取り繕うことはもう不可能らしいことを察する。

「ま、その涙ぐましい片想いも、そろそろ強制終了だろうけどな」
「え?」
「ほら」

 そう言って、皇くんが顎で窓の方を指した。その動きの先を辿るように窓に近づけば、ちょうどここから見える渡り廊下を歩く、先生と松尾先生の姿を見つけた。なにを話しているのか当然ここからでは聞こえないけど、なんだかやけにふたりの距離が近い。

「校内じゃ、あそこはデキてるってもっぱらの噂だ。歳も近いし、美男美女とか言われてるし、そうなるのは当然の流れだよな」

 いつの間にか背後に迫っていた皇くんの声が、皮肉なくらいに的確にわたしの心を抉ってくる。

 こうして見ると、ふたりは本当にお似合いだ。

 先生が松尾先生と付き合っていないことは分かっている。けれど未来は分からない。いつ、そうなるかはだれにも分からない。
 女同士だからか分かってしまうのだ。松尾先生も先生を男として見ていて好意を寄せていることが。