一瞬のしんとした空気の後、わたしの、そしてクラス中の視線が一斉に教室の後方のある席へ注がれた。
視線が集まったのは意外すぎる人物だった。クラス1の問題児である皇くんが、頬杖をついてだらしなくもう一方の手を挙げている。
滅多に出席せず、しかもこういった行事に積極的に参加しそうなイメージがまったくない彼の突然の立候補に何事かとクラスがざわつく。
けれどわたしは喧騒の中、体を元の向きに戻しながらふとあることに気づいた。そういえば、体育祭ということは……。
「センセー、ただひとつ条件があるんすけど、」
先生のジャージ姿を合法的に拝めるということだ。
クラスの違う綾木くんのジャージ姿を拝んだ機会は2回しかなかったし、これはまたとないチャンス。確定した勝利に拳を突き上げ、まだ見ぬ尊さにジーンと浸っていると。
「森下サンも体育祭委員にしてください」
唐突に耳が拾った自分の名前に、そこでふと先生に向けていた全意識を現実に戻した。