そしてグラス一杯の水を手にリビングに戻りながら、まだ部屋の電気をつけていないことに気づいた。廊下の電気がついているからリビングの電気がついていなくてもあまり不便がないせいで、気づかなかった。

「お水、持ってきましたよ」

 先に水を渡してから電気をつけようと、グラスを差し出したところで不意に先生にくいと手首を引かれ、わたしはソファーに腰を落とした。そしてあろうことか、その膝の上に体を倒してきた先生がごろんと頭を乗せてくる。

「せ、先生……っ?」

 これはさすがに攻めすぎでは……!?と飛び上がりそうになるのをこらえて目を白黒させていると、先生が呂律の回りきっていない口調で拗ねたように呟いた。

「ちょっとここにいろ」

 先生は酔うと、いつもより甘えん坊さんになるみたいだ。
 微笑ましさから、つい綻んだ声が漏れる。

「ふふ、はい。喜んで」

 持っていたコップをソファーの横の小さな棚に置き、そっと先生の柔らかい髪を撫でてみる。

「大丈夫ですよ。寝るまでわたしはここにいます」

 先生の頭を膝に乗せたまま、足下にあった掛け布団をそっと体に掛けてやる。そして髪を撫でていると、膝の上で先生が安心したように力を抜いたのが分かった。