「じゃ、そろそろ行くか」
「そうだな」
「行ってくるね、森下ちゃん」

 腕時計を確認したふたりが出発しようとした時、わたしはふとあることに気づき、先生を呼び止めた。

「あ、先生!」
「ん?」

 振り返った先生の首元に手を伸ばし、少しズレていたネクタイをまっすぐに直す。

「はい、これで完璧です」

 ネクタイから視線をあげれば、先生が「ありがとな」と柔く微笑んでいた。梅子よりも背が高いこの体で殺傷スマイルを想像よりも近くから浴びてしまい、ドキッと鼓動の音が跳ね上がる。
 そうしてわたしは、赤面を隠しながらふたりを見送りださなくてはいけない羽目になったのだった。