「なにしてるんだ、柳」
「先生……!」

 その声と共に現れたのは、柳さんと同じくスーツ姿の先生だ。
 スーツ姿の先生は、筆舌に尽くしがたいかっこよさだった。まるでテレビか雑誌から飛び出してきたようだ。学校ではいつも私服だから、こういうフォーマルな姿は見慣れないということもあり、余計にドキドキしてしまう。鼻血を出さずに耐えているだけでも褒めてほしい。

「あはは。綾木の部屋と森下ちゃんの部屋を間違えちゃって」
「ばか」

 そんなやりとりをするふたりの姿を交互に見比べても状況を把握できないわたしは、おずおず疑問を口にする。

「どうしたんですか、おふたりともスーツを着て……」

 その問いかけに答えてくれたのは、目の前に立つ柳さんだった。

「ああ、今日ね、大学の友人の結婚式に参加するんだ」
「なるほど……!」
「どう? 森下ちゃん。綾木のスーツ姿は」
「……とっても素敵すぎて目が潰れそうです」
「持ち上げなくていいから」
「いえ、本心です……!」

 目をらんらんにしてそう言い切れば、先生はわたしがまるで意味不明な宇宙語を話しているかのような顔をした。