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先生から語られた過去と梅子への想いは、胸の内に消化しきるにはとても悲しくて重たいものだった。
けれど翌日教壇に立つ先生はいつもどおりの空気を纏っていて、先生がもう何度も悲しみややりきれなさをひとりで殺してきたということを知らしめられたのだった。
一週間後。今日は土曜日だから、起きても部屋着のままベッドの中でごろごろしていた。
けれど、そんな時に限ってチャイムというのは鳴るもの。
ひとりの時間を割り入るように聞こえてきたチャイムの音に、わたしはベッドから飛び起きる。部屋の隅にある姿見でさっと確認すれば、なんの変哲もないTシャツさえモデルのように着こなしている桃の姿がそこにあった。
……よし、これならセーフだろう。
そして慌ててモニターを確認もせず、玄関のドアを開ける。
「はい!」
「よっ、綾木! って、あれ? 森下ちゃん?」
そこに立っていたのは、なんと柳さんだった。けれど前回と違う雰囲気なのは、彼がフォーマルなスーツを身に纏っているせいだろう。
「あ、先生なら、隣の部屋です」
「ごめん! 間違えた!」
玄関先でそんなやりとりをしていると、不意に隣の部屋のドアが開いた。