「森下に指摘されたピアス跡を塞げないのだって、あいつがピアスをくれた時に開けた穴だから、あいつとの繋がりが消えないようにっていう、しょうもない抵抗だ」
……あの時。拒絶されたと、綾木くんは大人になって変わってしまったのだと、無意識のうちに全部先生のせいにしていた。
だけど先生は――綾木くんは、あの日からちっとも変わっていなかった。
先生が、空気をとりなすみたいにわざと言葉のトーンを和らげた。
「過去のことなんてどうでもいいなんて言っておいて、一番過去に縛られてるのは俺だ。……実際の俺はこんなもんなんだ。大人げなくて幻滅しただろ」
自分を蔑む先生の背中に額を押しつけ、ふるふると何度も首を横に振る。そして。
「……好き、だったんですか。梅子さんのこと」
震える唇でそう問えば、先生はなんの迷いもなく、切なさの滲んだ声で答えた。
「好きだった。優しすぎるくらいの愛情を惜しむことなく向けてくるあいつのことが。でもなにもしてやれなくて、好きの一言だって言ってやれなくて、後悔しかないけどな」


