綾木くんが椅子を倒しながら立ち上がり、覆いかぶさるようにしてわたしを見つめてくる。それはまるで、いつ消えるかわからないわたしを離すまいと必死に縋っているようで。その瞳からは、彼がどれだけ心配してくれていたかが痛いほどに伝わってくる。
「大丈夫か、梅子……っ」
「し、し、心配させて、ご、ご、ごめんなさい……」
「なにばかなことしてるんだよっ!」
綾木くんに初めて怒られた。
ああ、わたしはなんてばかで愚かなことをしたんだろう。こんなにも悲しんでいる人がいたというのに。
また怒られる……と思いきや、ふと脱力したように綾木くんがわたしの上に重なってきた。
「あ、あ、綾木くん……?」
「……ごめん、ごめんな、梅子」
わたしの肩に顔を埋め、綾木くんが泣いていた。
「気づけなくて、助けてやれなくて、ちゃんと愛してやれなくてごめん。苦しい思い、ひとりでさせてごめん」
それまで行き場のなかった思いをぶつけるように、ぎゅうっと抱きしめられる。
「でも一緒に乗り越えたかった。俺が梅子を守りたかった……っ」
「……っ」
鼻の奥がツンとして痛くなる。
悔しさのにじんだ感情をぶつけられ、それに感化されるように固く閉ざしていた本音が震える声となってこぼれる。