すると不意に、視線を落としたわたしの頬に温かいものが触れた。それが先生の手だと気づくのには時間はかからなかった。
驚いて顔をあげれば、まだ熱っぽい先生の目が、心配そうにわたしを見つめている。

「どうした」
「え?」
「泣きそうな顔してる」

 やっぱり、先生にはなんでもお見通しみたいだ。
 わたしは鼻をすすって、自分の頬にあてられた先生の手に自分の手を重ねる。この世で一番愛おしいものに触れるように。じんわりと熱が溶け合っていく。

 その時、不意に自分の体が光り始めた。無数の光の胞子に包まれる。

「森下?」

 わたしが、森下桃が消えるのだと瞬時に理解する。
 消えゆく中、わたしはたしかな覚悟を声にする。

「先生、待ってて」
「え?」
「今度こそ絶対に……絶対に、わたしが幸せにするから」

 不可思議な状況で、突然そんなことを言われて驚いただろう。でも先生はわたしの目をしっかり見つめ、そして一言「待ってる」の言葉を授けてくれた。

 愛おしさが込み上げてきて息がつけなくなりそうになった、その時。眩い光に包まれ、わたしの姿は消滅した。