わたしの眼差しを受け取り、天使は「はあ……」とため息を吐き出した。そしてわたしを大きな瞳で強く見返してくる。

「ここはあくまであんたが死んだ場合の世界。だから死ななかったもうひとつの世界に戻ることもできる。でもほんとにいいの?」
「うん。わたしの気持ちはもう決まってる」
「わかった」

 天使が頷き、手にしていた白いステッキを振り上げた、その時。

「……森下?」

 リビングの方から、わたしを呼ぶ声が聞こえてきた。見れば、さっきまで寝ていた先生が上体を起こしていた。先生の目には天使が見えていないのか、視線が注がれる先はわたし一点だ。
 わたしはベッドに駆け寄り、先生の横に膝をつく。

「先生……っ、体は?」
「大丈夫だ。迷惑をかけて悪かった」
「いいんです。先生が無事ならそれで……」