皇くんは泥だらけのわたしを見て目を丸くする。

「うわ、その恰好どうしたんだよ」
「へへ、ちょっと転んじゃって……」
「まだ夕食まで時間あるし、フリータイム中にシャワーだけでも浴びてきちゃえよ」
「うん、そうしよっかな」

 今、わたしを包んでくれるサラちゃんたちや皇くんは、とても温かい。今、わたしは紛れもなく幸せなのだと思う。
 こんなにも温かい声をかけてもらえて、大勢から求められ愛される、桃という存在。冷たい水の中で死んでいったわたしとは正反対だ。
 こんなにも優しい感情を向けてもらえる今の環境は当たり前ではないとわかっているからこそ、臆病になる。まるで夢のようなこの今の状況を、夢にするのは怖い。
 弱虫な自分が一番嫌いだったのに、結局変われないままだ。
 わたしは人知れず、ぎゅうっと拳を握りしめたのだった。