「……帰りましょっか」
いつの間にか雨はやみ、雷もどこか遠くへ離れていったようだ。降るのも止むのも急な、困った天気だ。
琉羽にも早く無事を知らせないとと、立ち上がって歩きだそうとした時。
「森下」
背後から名前を呼ばれて振り向くと、先生がいきなり上体を倒してきた。そしてもたれかかうようにわたしの肩に額を乗せる。
「せ、先生……!? 先生が汚れちゃいます……!」
思いがけない行動に、心臓が跳ね上がり一気に顔に熱が昇る。
けれど先生は、わたしの肩に額を埋めながら「いい」とそれだけ返してきた。
先生の息が近くて、体がかちこちに固まる。体を揺らすことさえ躊躇われて、息を吸うことを忘れる。
先生は小さくそして長く息をひとつ吐き出すと、ゆっくり顔をあげた。その顔には、儚くも綺麗な微笑が浮かんでいる。
「帰るか」
その眼差しになぜか懐かしさを覚えながらも、わたしは頷いた。