【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい


「はぁ、はぁ……」

 どれくらい走っただろう。
 あてもなくひたすら走り続けていると息が切れて、足場がぬかるんでいるせいで足が重くなってきた。先生の元に今すぐ駆け寄りたいのに、そんなことすらできない自分の無力さが悔しい。

「先生……」

 口の中でつぶやき、下唇を噛みしめた時。遠くにぽつんと建つおんぼろな木の小屋の軒下に、人影を見つけた。
 視界を遮る雨を避けるように目を細めると、それが先生だということに気づく。

「先生……!」

 カッパのフードを外して駆け寄りながら声を張りあげると、空を見上げていた先生がこちらに気づいた。

「森下……?」
「よかった、無事だったんですねっ?」

 安堵の声をあげれば、先生はなんでもないことのように返してくる。

「ああ、雨が止むまで雨宿りしてた」
「雷はっ? 柳さんからトラウマだって聞いて……」
「雷か。昔はだめだったけど、さすがにもう大丈夫だよ」

 さらりとした返しに呆然とする。……ということは、わたしが勝手に早とちりして焦っていたということだ。
 先生をひとりで泣かせていなくてよかった。安堵から張りつめていたものが切れて、先生の足下にしゃがみ込み、泥のついたままの顔でへにゃりと笑う。

「へへ……余計なことしちゃいました。先生はもう大丈夫だったんですね」

 すると先生がわたしの目の前にしゃがみこんだ。その顔には、泣きそうになるくらい優しい笑みを浮かべていた。瞳と瞳とが交わるのは、いつぶりだっただろうか。

「余計じゃない」
「え?」
「守りに来てくれたんだろ」

 じんと目の奥が熱を持つ。
 守りに来たなんて、そんな大層なことじゃない。だって、わたしは先生を傷つけた張本人なのだから。