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雨に濡れ、山の中はひどくぬかるんでいた。スニーカーの中にはあっという間に泥が侵入してきて気持ち悪い。
けれど山の中を進む足を止めることはなかった。泥と雨とで汚れるのも、大嫌いな虫が寄ってくるのも厭わず先生を捜す。
「先生! 先生!」
どこにいるんですか、先生。どんな気持ちでいるんですか、先生。
先生が流した涙の分、わたしは先生の笑顔を取り戻したい。……そのためにきっと、わたしにできることはひとつ。わかっている、わかっているのにそれを行動に移すのはとても勇気のいることで。
自分の身長よりも高く生い茂った雑草を手でよけながら進んでいると、そちらに気を取られたせいか泥に足をとられる。大きくよろけて、なにかに縋ろうにも間に合わず、豪快に泥の上に転んだ。べちゃっと不快な音をたてて、体に泥がつく。
肺が重く、息苦しい。
けれど、今は一刻も早く先生の元に駆けつけたくて、顔に撥ねた泥を腕でごしごし拭うと立ち上がって再び走り出した。


